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自治体が直面する災害時の現場対応で求められるドローン活用の実践ノウハウ

はじめに

近年、日本各地で地震や豪雨、台風などの自然災害が頻発し、被害の規模も拡大傾向にあります。こうした状況下で、自治体に求められるのは迅速かつ的確な現場対応と被害状況の把握です。そこで注目を集めているのが、ドローンの活用です。ドローンは、被災地に安全かつ効率的に接近し、現場の状況を空から把握できる技術として、多くの自治体で導入が広がっています。しかし、実際に導入・運用するには、技術的な知識や運用マニュアル、法令遵守、災害時特有のノウハウが必要です。本記事では、2025年現在の最新動向を踏まえて、自治体が災害現場でドローンをどのように活用し、現場対応力を高めていくための実践的なポイントや、具体的な運用事例、導入手順を詳細に解説します。

ドローンとは何か―定義と災害対応分野での位置付け

ドローンの基本的な定義と構造

ドローンとは、正式には「無人航空機(UAV: Unmanned Aerial Vehicle)」と呼ばれ、遠隔操作や自律飛行が可能な航空機のことです。日本の航空法でも無人航空機として定義されており、カメラやセンサーを搭載して飛行できる機体が多く普及しています。主に回転翼型(マルチコプター)が災害調査分野で利用されています。

災害対応でのドローンの特徴

ドローンは、人が立ち入るのが困難な場所にも容易に接近し、上空から広範囲の映像や静止画をリアルタイムで取得できます。このため従来の人力調査や有人ヘリコプターでは得られなかった迅速性と安全性が得られ、自治体の災害対応力強化に位置付けられています。

自治体が災害現場でドローンを活用するメリット

安全性の向上

被災現場は、地盤の崩壊や浸水、倒壊建物の存在などで二次災害のリスクが高まります。ドローンは、人員を危険区域に立ち入らせることなく、状況把握や情報収集が可能です。これにより、自治体職員や消防隊員、自衛隊員の安全を確保しつつ、被害情報を取得できます。

迅速な情報収集と初動対応

広範囲での被害状況を短時間で俯瞰することは、初動対応の遅れを防ぎます。ドローンは離陸後すぐに現場へ到達し、映像をリアルタイムで指令所へ送信可能です。これにより、救助活動や避難誘導の方針決定が迅速になります。

コスト削減と効率化

有人ヘリコプターや高所作業車による調査に比べて、ドローンは導入・運用コストが低く、省力化も実現します。複数台運用することで、同時多発的な現場調査も可能となり、自治体のリソースを有効に活用できます。

災害現場での自治体によるドローン活用の代表的な事例

河川氾濫時の被害状況把握

例えば、令和元年の台風19号では、多摩川や千曲川など複数の河川が氾濫し、広範囲に渡って浸水被害が発生しました。自治体ではドローンを用いて上空から氾濫範囲や孤立地域を特定し、被害エリアのマッピングや救助計画の立案に活用しました。ドローンによる空撮画像は、GIS(地理情報システム)と連携して迅速な意思決定を支援しました。

土砂災害・地すべり現場の調査

豪雨や地震による土砂災害現場では、斜面の崩壊状況や土砂の到達範囲をドローンで詳細に観測できます。2021年の熱海市土石流災害では、自治体がドローンを投入して、被害発生直後の斜面状況や流出経路を把握し、二次災害防止と救助活動の迅速化に役立てました。

孤立集落への情報伝達と支援物資投下

道路が寸断された孤立集落への情報伝達にもドローンが利用されています。小型ドローンに通信機器やメディカルキットを搭載し、現地住民へ直接届ける事例も見られ、自治体の柔軟な対応力を発揮しています。

自治体がドローンを災害対応で活用するための導入準備

機体選定のポイント

災害現場での運用に適したドローンを選定するためには、以下の点を重視しましょう。

  • 耐風性能:強風下でも安定飛行できる機体
  • 飛行時間:長時間の連続飛行が可能なバッテリー性能
  • カメラ性能:高解像度かつ赤外線カメラ搭載モデルも有用
  • 持ち運びやすさ:緊急出動時に迅速展開できるサイズ

操縦者の育成と研修体制

自治体職員や消防団員がドローンを安全に運用できるよう、定期的な操縦訓練が不可欠です。座学と実地訓練を組み合わせ、災害時を想定したシナリオ訓練も推奨されます。資格取得(例:無人航空機操縦者技能証明)の取得を推進する自治体も増えています。

運用マニュアル・手順書の整備

災害発生時の混乱を避けるため、機体の点検・飛行計画策定・情報共有方法などについて、詳細な運用マニュアルや手順書を事前に整備しておくことが重要です。また、平時から定期的な訓練を通じてマニュアルの実効性を検証することも求められます。

航空法の適用と緊急時の特例

日本の航空法では、ドローンの飛行には原則として国土交通大臣の許可・承認が必要なケースがあります。しかし、災害時には「緊急用務空域」の設定や「緊急時特例」が適用できる場合もあり、事前に自治体が国や関係機関と連携しておく必要があります。具体的には、以下のような対応が考えられます。

  • 平時に運用許可の取得・飛行計画の提出
  • 災害発生時の緊急通報・特例適用の手続き明確化

プライバシー保護とデータ管理

ドローンが撮影する映像には、個人の住宅や車両、人の姿が含まれる場合があります。自治体としては、個人情報保護条例やガイドラインに沿った撮影範囲の設定、データの取り扱いルール策定が必要です。取得したデータの保存期間や第三者提供についても明記しておくべきです。

最新の法改正動向

2022年の航空法改正以降、無人航空機の登録義務や遠隔ID搭載が義務付けられるなど、規制は強化されています。2025年現在も、運用の安全性と迅速性の両立を目指した制度改定が進行中です。最新情報は国土交通省や内閣府の公式発表を定期的に確認することが推奨されます。

災害現場でのドローン運用フローと現場対応のポイント

現場到着から飛行準備まで

災害発生直後に現地へ到着したドローンチームは、まず安全な離着陸場所の確保、気象条件の確認、機体・バッテリーの状態点検を行います。現場の通信環境やGPS信号の取得状況を確認することも欠かせません。

飛行計画の策定と関係機関との連携

飛行エリア・高度・経路・任務内容(例:被害家屋の撮影、孤立地区の探索)を明確にし、現場の指揮本部や他の救援組織と調整します。また、近隣住民への周知や飛行中の安全確保にも配慮が必要です。

データ取得・分析・共有の手順

ドローンが撮影した映像データは、リアルタイムで現地本部や災害対策本部へ送信し、迅速に被害情報を共有します。必要に応じてGISやAI画像解析ツールを活用し、被害マップや被災家屋のカウント、土砂流出範囲の自動抽出などを実施します。

消防・警察・自衛隊など他機関と連携したドローン活用

共同訓練による連携強化

自治体が単独でドローンを運用するだけでなく、消防・警察・自衛隊など他機関と合同で訓練を実施することで、現場での連携力が高まります。例えば、情報共有の手順や管制の分担、通信プロトコルの統一などが訓練のテーマとなります。

災害時の情報集約と意思決定支援

各機関から得られる情報を一元集約し、被害マップや被災者リストを作成することで、指揮系統の明確化と迅速な意思決定が可能となります。ドローン映像は、他機関の活動計画にも活用できます。

支援要請時のドローン運用基準の明確化

外部からの支援要請(例:他自治体のドローンチーム派遣)時には、運用基準や飛行ルールを事前に明文化しておくことで、現場混乱の防止につながります。標準化された運用マニュアルの共有が推奨されます。

災害対応ドローンの最新技術動向と今後の可能性

赤外線・熱画像による夜間捜索

近年のドローンは赤外線カメラを搭載し、夜間や煙、霧の多い環境でも被災者や火災源を検知できるようになっています。これにより、従来困難だった夜間の捜索救助活動が効率化されています。

AI・自動飛行による被害自動判別

AI画像解析技術によって、ドローンが取得した映像から崩壊建物や浸水エリアを自動識別し、地図上にプロットできるようになっています。2025年現在、複数の自治体が実証実験を進めており、今後の実装が期待されています。

通信中継・ネットワーク構築への応用

被災地で携帯電話が不通となった場合、ドローンが臨時の通信中継基地として機能する技術も登場しています。これにより、現場と指令本部間の円滑なコミュニケーションが実現できます。

自治体が直面する災害対応ドローン運用の課題とその解決策

操縦者不足と人材育成

ドローン運用には専門知識と操縦技術が必要ですが、自治体の人員体制では十分な操縦者が確保できない場合もあります。これに対し、地域の消防団や地元企業と連携した人材育成プログラムの導入、オンライン研修の活用などが解決策となります。

予算・調達面での課題

ドローンの機体更新や付帯機器の導入にかかる費用、操縦者の教育コストが自治体予算を圧迫する場合もあります。国の補助金・交付金制度や、広域連携による共同調達が有効な手段となっています。

住民の理解と社会的受容性

ドローンの飛行に対するプライバシーや安全性への懸念が住民から寄せられることがあります。自治体は、説明会や広報活動を通じて、ドローン活用の目的や安全対策を丁寧に説明し、住民の理解と協力を得る必要があります。

災害時ドローン運用マニュアルの作り方と見直しのポイント

標準運用手順の策定

マニュアルには、出動判定基準、飛行計画立案、操縦者と補助者の役割分担、現場での安全確保策、データ管理方法などを明記します。各プロセスをチェックリスト化することで、緊急時の対応漏れを防ぎます。

定期的な訓練とフィードバックによる改善

平時から定期的な訓練を実施し、訓練終了後には問題点や改善点をフィードバックしてマニュアルを更新します。災害対応の現場経験を反映させることで、実効性の高い運用体制が構築できます。

マニュアル共有とアクセス性の確保

マニュアルは、紙だけでなく電子データ(クラウドやイントラネット)でも管理し、関係者が常時閲覧できるようにしておきます。災害発生時には即時共有できる体制が重要です。

今後の自治体による災害対応ドローン活用の展望

広域連携と標準化の加速

今後は複数自治体が共同でドローン運用体制を構築し、広域災害への対応力を高める取り組みが加速すると見込まれます。運用マニュアルやデータフォーマットの標準化が推進されており、効率的な情報連携が可能となります。

住民との協働による地域防災力向上

ドローン体験会の開催や住民参加型の災害訓練を通じて、地域全体の防災意識向上と協働体制の強化が期待されています。また、住民自らがドローン操縦者として活躍するケースも増えてきています。

技術進化による対応範囲の拡大

今後は水中ドローンや地上走行型ドローンなど、多様なロボットとの連携が進み、災害対応の現場力がさらに強化されていくでしょう。AI・IoT技術の進化により、より精緻な被害分析や高度な自動運用も実現が期待されています。

具体的な自治体ドローン活用事例集

自治体名 災害種別 活用内容 成果・課題
千葉県佐倉市 台風・大雨 河川氾濫時の被害エリア撮影、孤立集落の探索 迅速な被害把握が可能となったが、操縦者不足が課題に
静岡県熱海市 土石流 被災斜面の空撮、被害建物の位置特定 二次災害リスク低減、データ分析にAI導入を検討
新潟県十日町市 豪雪 雪崩現場の調査、孤立家屋の探索 迅速な救助につながったが、悪天候下の飛行制限が課題
熊本県球磨村 豪雨 浸水家屋のマッピング、救助活動支援 リアルタイム映像共有で救助効率向上、データ保管体制の整備が必要

上記のように、各自治体での取り組みは現場の状況や人員体制、技術レベルによって多様です。事例を参考に、自地域の状況に合わせた運用体制づくりが求められます。

災害対応ドローン運用のためのチェックリスト

導入・運用にあたり、以下のチェックポイントを参考にしてください。

  • 機体の定期点検と予備バッテリーの確保
  • 操縦者・補助者の役割分担と連絡体制
  • 飛行計画と関係機関への事前連絡
  • 現場到着時の安全確認・離着陸場所の確保
  • データ取得後の即時共有とバックアップ
  • 住民や報道機関への適切な情報伝達
  • 訓練後・災害後の運用記録とマニュアル改善

自治体担当者から寄せられやすいQ&A

Q1: 災害時にドローンを飛ばすには事前に何を準備しておけばよいですか?

A1: 機体の点検とバッテリー充電、飛行許可の取得、操縦者の訓練、運用マニュアルの整備が必要です。また、災害時の連絡体制や現場での安全対策を事前に確認しておくことが重要です。

Q2: ドローンの撮影データはどのように管理すれば良いですか?

A2: データは暗号化して安全に保存し、アクセス権限を明確にして管理します。個人情報が映り込む場合は、自治体の個人情報保護条例に則り、必要最小限の保存と第三者提供ルールの徹底が求められます。

Q3: 操縦者が不足している場合はどうすれば良いですか?

A3: 外部の専門事業者と協定を結ぶなど。

用語解説:災害対応ドローンに関する主要キーワード

  • UAV(無人航空機): 遠隔操作や自律飛行が可能な航空機。ドローンの正式名称。
  • GIS(地理情報システム): 地図データと現場情報を組み合わせ、被害分析や救助活動の計画に活用する情報システム。
  • 緊急時特例: 災害時など、通常の飛行許可手続を簡略化できる法的措置。
  • AI画像解析: ドローンが取得した画像を人工知能が自動で認識・分析する技術。
  • 遠隔ID(リモートID): ドローンが無線で自機の識別情報を発信する制度。2022年以降義務化。

参考資料・ガイドライン

  • 国土交通省「無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の飛行ルール」
  • 内閣府「大規模災害時における無人航空機の活用ガイドライン」
  • 総務省「災害時におけるドローン活用の実証実験集」
  • 各自治体の防災計画・マニュアル例

これらの資料をもとに、自自治体の実情にあわせたドローン活用方針の策定・見直しを進めることが重要です。

災害対応ドローン運用時の注意点と失敗事例

ドローンは災害対応において大きな力を発揮しますが、現場運用時にはいくつかの注意点があります。ここでは実際に起きた失敗事例をもとに、自治体担当者が気を付けるべき事項を整理します。

バッテリー管理不足による運用停止

ある自治体では、災害現場で複数回の飛行任務を遂行した結果、予備バッテリーの充電が不十分で、必要なタイミングで飛行できなくなった事例が報告されています。バッテリー残量は必ず事前に確認し、現場には十分な数の予備バッテリーを持参しましょう。また、長時間現場に滞在する場合はポータブル充電器などの活用も検討が必要です。

電波障害・通信断による制御喪失

災害現場では、電波障害やGPS信号の遮断により、ドローンが制御不能となるケースもあります。特に山間部や建物密集地では、事前に通信環境を評価し、万が一の時は自動帰還機能を有効にしておくことが望ましいです。現地での飛行高度やルート選定にも注意し、常に安全回収ができるよう準備しましょう。

現場混乱時の情報伝達ミス

複数機関が同時に活動する災害現場では、ドローン運用に関する情報共有が不十分だと、飛行エリアの重複や安全確保の不備が生じることがあります。飛行開始前には必ず現場指揮本部との連絡を徹底し、飛行計画や終了報告を明確に伝達するルールを設けましょう。こうした基本動作の徹底が、現場でのトラブル防止につながります。

応用編:自治体ドローン活用に関するよくある質問

Q1: 悪天候時の飛行はどう対応すべきですか?

A1: 強風や降雨、雪などの悪天候時は、ドローン機体の耐候性能を事前に確認し、メーカー推奨の気象条件を必ず守りましょう。無理な飛行は機体の損傷や墜落、操縦者・第三者への危険につながります。天候急変時は即座に飛行を中止し、現場の安全を最優先してください。

Q2: 住民からドローン運用に対して苦情があった場合の対応は?

A2: 住民のプライバシーや騒音に対する懸念には、事前の説明会や広報活動でドローンの目的や運用ルールを周知しましょう。苦情が寄せられた場合は迅速に状況を確認し、必要に応じて飛行ルートや運用方法の見直しを行います。住民の理解と信頼を得ることが、地域防災力の向上にもつながります。

Q3: 災害時にドローンが墜落・損傷した場合の対応は?

A3: 墜落や損傷が発生した際は、速やかに現場を安全に確保し、関係機関へ報告します。機体回収後は事故原因を調査し、今後の運用マニュアルや訓練内容に反映させましょう。また、損害保険への加入や、予備機体の確保も重要な備えです。

導入・運用体制再点検のためのチェックリスト

災害対応ドローンの導入・運用体制を見直す際は、以下の観点で自己点検を行いましょう。

  • 最新の法令・ガイドラインに沿った運用手順となっているか
  • 操縦者・補助者の人員計画と継続的な訓練体制が確立されているか
  • 機体・付帯機器のメンテナンス記録や更新計画が整理されているか
  • 住民・関係機関への説明責任や情報公開体制が整備されているか
  • 実際の災害対応や訓練をふまえた運用マニュアルの見直しが定期的に実施されているか
  • 予算や補助金活用、広域連携など持続的な体制整備の視点が盛り込まれているか

これらの項目を定期的に点検し、不備があれば速やかに改善策を講じることが、自治体の現場対応力強化に直結します。

今後の課題と自治体へのアドバイス

災害対応ドローンの普及が進む一方で、技術や運用ノウハウの地域格差、操縦者の高齢化、AI・データ活用に関する法制度の遅れなど、新たな課題も顕在化しています。これらの課題を乗り越えるためには、自治体間の情報交換や共同研究、若手人材の積極的な育成が不可欠です。さらに、国・都道府県レベルでの技術標準化や研修プログラムの強化、住民参加型の防災訓練の推進など、多層的な取り組みが求められます。今後は、単なる技術導入にとどまらず、「地域の防災文化」としてドローンを根付かせる視点が重要になるでしょう。

まとめ:自治体の災害対応ドローン活用で現場力を高めるために

ドローンは、災害現場の迅速な状況把握と安全な情報収集を可能にし、自治体の現場対応力を飛躍的に高めるツールです。しかし、実際の運用には法令遵守や住民理解、現場での安全対策、操縦者の育成、運用マニュアルの整備・見直しなど、多くの課題と準備が不可欠です。事例やチェックリスト、失敗から学んだ注意点を活かし、現場ごとに最適な体制・ルールを構築していくことが、災害時の真の「安心・安全」につながります。今後も技術進化と現場経験を積み重ね、自治体の災害対応力をより強固なものにしていきましょう。

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